映画出演報告。
−いつかA列車に乗って−
【きっかけ】

2003年5月15日、横浜のホテルでのディナーショーを終え、エスペランサ(横浜のメキシコ料理)で打ち上げをしていた時、携帯が鳴った。
先輩のドラムの方からの電話。「映画に出てみないか?」と言う。
僕は、1日か2日演奏シーンでも撮るのだと思い込み、「いいけど、いつ?」と返事をすると、何と、5月24日から20日間も拘束されると言うではないか!
「それじゃ急すぎるし、スケジュール調整しても無理です」とやる気は一気に無くなった。
はい、これで終わり!と自分の中ではこの話は無かった事にしていたが、また電話が来た。
「兎に角、向こう(映画関係者)は1度会いたいと言っている」と言う。
乗り気は全く無かったが、会うだけならいいか・・・と思い、次の日病院の帰りに東映撮影所の門をくぐった。
プロデューサーの貝原さんに事務所のソファーに座らされ、次はキャスティングディレクターの室岡さんが来て、僕の体を上から下までジーッと見だした。
今思えば、恐いもの知らず、「こっちのスケジュールで潰すものは潰すから、生かすものは生かせてくれ!それが出来ないのであればこの話は無しと言う事で!!」なんて僕の主張だけを述べた。
すると、監督が登場。監督は快く(?)了承してくれた。
(後に、その時に会った監督が「荒木とよひささん」であることが分かった)
監督のOKが出たことで、室岡さんは話をどんどん進める。僕も条件を了承してもらったことで、返す言葉が見つからなくなった。
衣装合わせからメイクのこと、何と!白髪を作ろう・・・とか、もう既に後に引けなくなっていた。
演奏シーンでは、「音源があるのでコレ聞いてください」とスグにCDをかけだす。
(ベース弾きとしては結構辛いもので、下手でも自分の音でやるのが当たり前だと・・・)
「はぁ〜なる程!」とかなりガックリ。
しかし、「セリフも結構あります。大丈夫ですよね?」ときたもんだ。
セリフと聞いて、即答「やらせてもらいましょう!」でした。
ただ・・・65歳の役ということにちょっとショックを受けたが・・・(65歳に見える?)

それからが大変。「年寄りの」ドラムを探してくれ。と頼まれた。
急に事務所の人間になったように、2時間電話をかけまくり。
当たり前の事だけど、あまりの急な話で皆、スケジュールが合わない。
その時、ハタと気づいたのが、既に引退してウン十年の松林末太郎さんだった。
「僕より年上だし、プレイしてたんだからやれるハズ」と思って電話。
話はストレートに伝わらず、ほぼ僕が騙したように(2〜3日ぐらいと思わせて・・・)OKさせた。
松林さんは、撮影所に来てからビックリ。蓋を開けてみれば20日間だった。
「僕が責任持つから我慢して付き合って!」と説得した。

【撮影開始】

台本に書かれる名前を「佐々木俊一でいいですか?」と聞かれ、大きく首を振った。
「ダメ!『エヘラ』と間に入れなきゃ、誰だか分かってもらえないから!」という訳で佐々木エヘラ俊一になった。
台本と音源CDを貰い、「ここが佐々木さんのセリフです。大丈夫ですよね?」と聞かれ、「解りました。何とかやります」と言ったものの、車の中に放りっぱなし。
数日後、スチール撮影の日、衣装を着て、「何か弾いてください」と言われた。
ウッシッシッ。ベースを持ったらこっちのものだ!と思いっきりベースを弾いた。
周りから「オーッ」という声が聞こえたような気がする。
「格好だけだったら自信あるもんね!」と少々有頂天になりながらスチール撮影は終わった。



 セット内のポスターに使われた写真 

さて、撮影も本格的に始まり、毎日朝8時に撮影所に行く日々が始まった。
今までの、朝帰り、昼帰り、無断外泊という生活ではいかなくなった。
それを知ってか知らずか、キャスティングディレクターの室岡さんから朝毎日電話が来た。
「今何処にいますか?ちゃんと8時には来れますか?」と言う内容だ。
室岡さんはマジメに聞いているのに、「う〜ん。難しいですねぇ。車混んでて・・・今撮影所に入ったばかりですから・・・」と朝からハイテンションになっていた。
撮影所に着くと、メイク室に直行。加藤大治郎さん(加藤剛さんの息子)、津川雅彦さんの娘、真由子さんがいたのを覚えてる。
共演者というより、何となくよその人という感じを受けながら、ドーランを塗り、白髪を作ってもらった。
このヘアメイクの細川さんが、また可愛い人で、メイクされながら「酒臭くないかな?目やにはついてないかな?鼻毛が出てるんじゃないかな?」と心配のあまりコチコチで心ここにあらず状態だった。



 演奏の1シーン 

初日は何を撮ったのか全く覚えていない。何せ生まれて初めての体験。ドキドキした。
加藤大治郎さんが「格好いいな」と思ったことぐらいしか覚えていない。
撮影所の6スタの中にJAZZ CLUB、その名も「A-Train」が出来ていた。とても雰囲気がよく、本当にこんなCLUBがあったらいいのにな・・・と思ったくらいだ。
(実際には無いぐらいのゆったりとしたスペース。ステージも広い)
美術の丸山さんの設計ということだ。たくさんのJAZZ CLUBを見に行ったとか・・・
店の入り口には、レギュラーメンバーのポスターが貼ってあり、それを見た真矢みきさんが「エヘラさん格好いい!日本人じゃないみたい!」と嬉しい言葉を言ってくれた。もうこの言葉で有頂天。
セットは細かい所まで行き届いてて、伝票まできちんとあった。
(結構リーズナブルな金額。僕も飲みに来たい)
そのA-Trainは横浜市中区にあるという設定だった。
全てが完璧で、リアルなセットだった。ココでハコが出来たらどんなに幸せか・・・
最初のセリフもNGを出さずに何とかOK。この頃主役は加藤大治郎さんと真矢みきさんだなと思っていた。
勿論、僕にとっては自分のことだけで精一杯。まるで僕が主役の気分だった。



 Saxの加藤大治郎さん。格好よかった。 

共演者の人達とも仲良くなり、その内、楽屋に小倉一郎さんがギター片手に遊びに来てくれるようになった。
小倉さんのギターは流石!最高でした。



 小倉一郎さんと 

あるシーンで、ヤクザ役(相澤さん、古川さん、出光さん)が、小倉さんを脅かしたり、小林桂樹さんを「ジジィ」呼ばわりするシーンでは、ステージから降りて、「牟田刑事官に何するんだ!」と言ったら進行ブチ壊しだろうな。それはそれで面白いかもな。その役僕がしたかったな。などと思ったりした。



 ヤクザ役3人組 


三木たかしさん(Piano)は暗い影のある役で、僕はただの酒好きでノー天気な役立った。
でもこれはこれで、演じなくても、素のままでやれたから良かった。



 左:荒木とよひさ監督 
 右:音楽監修&ピアニスト役三木たかしさん 


撮影所通いも慣れ始めた頃、控え室のあるビルの部屋には、「梅宮辰夫様」とか「藤田まこと様」とか「西田敏行様」などと書かれてあり、そっちの方に興味が湧き出した。
お隣の「釣りバカ日誌」のスタジオに行こうとしたとき、室岡さんから「何処行くの?」と聞かれ、「いや。こっちの方が面白そうだから・・・」と言うと、「ダメです!」なんて怒られた事もあった。
個人的に「はぐれ刑事純情派」が好きな僕は、女刑事、岡本麗さんに会いたかったな。残念。さくらのママにも。
でも、食堂では西田敏行さん、谷啓さん、はぐれ刑事の山手中央署の刑事さん達に会えた。
撮影所の中は未知の世界。とても面白かった。



 左:キャスティングディレクター室岡さん。右:作曲したマミさん。

さて、A列車の方ですが、相変わらず自分のことしか目に入らないし、僕にとってはずっと自分が主演なのですが、何と、本当の主演は津川雅彦さんだったと知りました。
「ビックリしたな〜」と言う僕に、室岡さんは「台本読んでないでしょう」と・・・バレてしまった。



 唯一の津川雅彦さんとのシーン。緊張した。 

最後に「皆さん。席に戻って飲みなおしましょう!」というセリフが舌が回らず言えなかった。
一度NGを出し、もう一度撮り直し。どうにか言えたが、OKと言われるまでの時間が長くて皆固唾を飲んで待っていた。荒木監督からの「ハイ!OK」の声で、皆から拍手された。何だかジーンときた。
真矢みきさんが飛んできて、「エヘラさん、良かったわね!こんなセリフでこんなに拍手があるなんて!」。
真矢さんの胸に飛び込んで感激の涙・・・というシーンは僕の自制心でカットした。
でも、またこんな機会が・・・・・・・・無いでしょうな。



 皆さん飲みなおしましょう! 

【最後に・・・】

荒木組のキャストの皆さん、特にスタッフの皆さん。有難うございました。
皆さんのお陰で楽しく仕事をさせてもらいました。
初めての経験で右も左も解らないオヤジでしたが、アップの絵まで(岡さん)撮っていただき感激です。
皆さんの温かい心が嬉しかったです。この映画に対する情熱を感じました。
僕も改めて、自分の音楽に対する情熱を傾けていきます。皆さんに負けていられません。
荒木監督も、長い間温めてきたこの作品に男のロマンとでも言うのでしょうか、感じました。
また何かの折に会うことがありましたら、飲みましょう。

時々、撮影所の前を通る時、「あぁ。僕にとっての20日間の青春だったなぁ。」と思っています。
夢が覚めたような、少し淋しい気分でもあります。
皆さん、もう既に別の作品に取り組んでいる事でしょう。
僕もこれで青春を終わらす気はありません!
皆さんに生きていく勇気を与えられました。感謝!!




 デニス(ds)と


 打ち上げ 神野美伽さんを囲んで 


 打ち上げ 中央:真矢みきさん 


 加藤大治郎さん 

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